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神戸地方裁判所 平成5年(ワ)399の2の1号 判決

兵庫県宝塚市〈以下省略〉

原告

X1

神戸市〈以下省略〉

原告

X2

右原告ら訴訟代理人弁護士

大搗幸男

正木靖子

亀井尚也

東京都千代田区〈以下省略〉

被告

日興証券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

宮﨑乾朗

京兼幸子

関聖

森分実

田中英行

塩田慶

右訴訟復代理人弁護士

松並良

山之内明美

主文

一  被告は、原告X1に対し金四二七万円及び内金三八七万円に対する平成五年三月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告X2に対し金五九万円及び内金五一万円に対する平成五年三月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中、原告X1と被告との間に生じた費用はこれを一〇分し、その七を原告X1の負担とし、その余を被告の負担とし、原告X2と被告との間に生じた費用はこれを一〇分し、その五を原告X2の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告X1に対し、金一四〇八万九二六二円及び内金一二八八万九二六二円に対する平成五年三月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X2に対し、金一一六万五四七二円及び内金一〇一万五四七二円に対する平成五年三月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告らが、被告の違法行為ないし被告従業員の違法な勧誘により後記ワラントを購入した結果、損害を被ったとして、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償及び訴状送達の日の翌日から民法所定の年五分の割合の遅延損害金を請求した事案である。

一  争いのない事実等

1  当事者

(一) 原告X1(以下「原告X1」という。)は、平成元年当時六九歳(大正八年○月○日生)で、○○大学工学部を卒業し、その後内務省を経て建設省に入省し、平成元年当時は建設コンサルタント会社であるa株式会社の大阪支店長であった。

(二) 原告原告X2(以下「原告X2」という。)は、平成二年当時七四歳(大正四年○月○日生)で、最終学歴は旧制高等女学校卒業であり、その後職業に就いたことはない。

(三) 被告は、肩書地に本社を有し、有価証券の売買等の取引を行う総合証券会社である。

2  ワラントの意義

ワラントとは、新株引受権付社債(ワラント債)の社債部分から切り離され、それ自体で独自に取引の対象とされる新株引受権ないしこれを表章する証券のことであり、発行会社の株式を予め定められた期間(権利行使期間)内に、予め定められた価格(権利行使価格)で、決まった数量を購入できる権利又はこの権利が表章された証券である。

3  ワラントの特徴

(一) ワラント価格は、理論的価値(パリティ)と株価値上がりへの期待(プレミアム)からなる。

ワラントの理論的価格は原則として株価に連動するが、その変動幅は株価のそれより大きい(ギヤリング効果)し、またプレミアム部分も不安定である(価格変動リスク)。

(二) ワラント発行時に定められた権利行使期間を過ぎると権利行使できなくなり、その価値がなくなる(権利失効リスク)。

また、権利行使期間前でも株価が権利行使価格を超える見込がない場合には価値がなくなり、その可能性は、権利行使期限が近づくにつれて高くなる。

(三) 外貨建てワラント価格は、為替変動の影響を受ける。

(四) ワラントは比較的新しく、周知性の低い商品であり、また、外貨建てワラントの取引形態は、証券会社と顧客との相対取引であり、価格形成の不明朗、価格情報の不足、売却が困難な場合があること等が指摘されることがある。

4  原告らの投資経験

(一) 原告X1について

原告X1は、昭和五一年一〇月ころから、被告との間で、自己名義及び同人の妻であるB(以下「B」という。)名義で、株式投資や転換社債、投資信託等の証券取引をしている(乙B一一の1、2、一二の1)ほか、セントラル・コンサルタント株式会社大阪支店長として同店の経営を担当し、中期国債ファンドの取引を行っていた。また、被告西銀座支店において、昭和六二年一月ころからB名義で、同六三年一一月ころから原告X1名義で、ワラント取引を行っていた(乙B一三の37、一四の21、別紙X1ワラント取引別表一)。

(二) 原告X2について

原告X2は、遅くとも昭和六〇年ころから、被告との間で株式投資や投資信託の証券取引をしている。

5  原告らの本件ワラント取引

(一) 原告X1について

原告X1は、被告西宮支店従業員で、平成元年当時原告X1の担当者であったC(以下「C」という。)の勧誘を受け、被告との間で、別紙X1ワラント取引別表二のとおりのワラント取引を行い、そのうち左記のワラントについていずれも権利行使期間を経過した(乙B一の132、133、137、四の60、62、以下、左記ワラントを、まとめて「本件ワラント(X1)」ともいう。)。

(1) ユニチカワラント41

買付年月日 平成一年一二月六日

買付価格 一九八万四一二五円

(2) 三菱重工ワラント14

買付年月日 平成二年一月二三日

買付価格 一六五万四八七五円

(3) 日本鉱業ワラント13

買付年月日 平成一年一二月二二日

買付価格 二三七万九三〇〇円

(4) 日本鉱業ワラント13

買付年月日 平成一年一二月二一日

買付価格 二三二万六八三七円

(5) 大日本スクリーンワラント91

買付年月日 平成二年一月一八日

買付価格 二七七万四〇〇〇円

(6) 三菱重工ワラント14

買付年月日 平成一年一二月七日

買付価格 一七七万〇一二五円

買取価格合計 一二八八万九二六二円

(二) 原告X2について

原告X2は、被告との間で次のワラント取引を行った(乙C一の59、60、87、以下、原告X2が右各取引により購入したワラントを、まとめて「本件ワラント(X2)」ともいう。)。

(1) ユニーワラント42(以下「ユニーワラント」ともいう。)

買付年月日 平成二年七月一〇日

買付価格 一八五万二二〇〇円

売却年月日 平成二年七月一六日

売却後手取価格 一九八万九三一五円

(2) ニチイワラント07(以下「ニチイワラント」ともいう。)

買付年月日 平成二年七月二三日

買付価格 一一五万三二〇〇円

売却年月日 平成五年一月一一日

売却後手取価格 六二三円

6  原告らの取引差損

(一) 原告X1について

原告X1は、本件ワラント(X1)につき、売却又は権利行使することなく権利行使期限を徒過したため、右ワラント購入代金である一二八八万九二六二円の取引差損を被った。

(二) 原告X2について

原告X2は、右5(二)のとおり、本件ワラント(X2)取引につき、一〇一万五四六二円の取引差損を被った。

二  主要な争点

1  ワラント取引一般の違法性の有無

2  本件各勧誘行為における違法性の有無

(一) 適合性原則違反の有無

(二) 説明義務違反等の有無

三  争点に関する当事者の主張

1  ワラント取引一般の違法性について

(原告ら)

(一)(1) 証券会社の優越的地位

証券会社は、その知識、経験、情報の収集、利用、判断すべての面において、一般的投資家に比してはるかに優越した地位にあり、かかる優越的な地位を利用して、一般投資家に対し、自己の判断、投資手法、取引内容をそのまま行わせ、一般投資家の損失において自己の利益を図る行為を行ってきた事実があり、ワラント取引における一般投資家の被害もまさにそのような証券会社の優越的地位の濫用によるものである。

(2) 顧客の証券会社に対する信用の悪用

原告ら一般顧客は、公的な免許を取得して証券業を営む証券会社は公正かつ誠実な業務遂行を行うものと信頼しており、ワラント取引は、かかる一般顧客の信頼を悪用してなされた違法な行為である。

(3) ワラントの新規性、非周知性

ワラントは、株式や社債などの旧来の金融商品とは全く異なる新規性を有するものであり、しかも市場そのものにとって未経験の商品で周知性の全くない商品である。まして、一般投資家にとっては、ワラントの危険性について新聞等に掲載されるようになった平成二年ころまで、一般投資家が目にしうる雑誌、新聞等にはワラントに関する記事はほとんどなく、まさに未知の商品であったのであるから、仮に購入者がそれまで通常の株取引、信用取引を繰り返していたような場合であっても、そのことによってワラントについての理解が可能であったと推認する事はできず、その新規性、非周知性から、一般投資家に対する勧誘対象としての適格性を欠く商品であった。

(4) ワラントの超ハイリスク性、難解性

ワラントは、現在株価がワラントの権利行使価格を上回らない場合には、ワラントの価値はほとんどなく紙くず同然のものとなり、そのまま権利行使期間を過ぎると紙くずとなる。しかも、価格変動は基本的に株価に連動するものの、その数倍の値幅で変動する性質(ギヤリング効果)を有し、ギヤリング効果による紙くず化の危険性も大きい。

また、その商品構造は非常に難解かつ複雑で、これを一般投資家に理解させるのは容易ではない。

(5) 証券会社にとっての構造的うま味

証券会社は、ワラント債発行に際して、幹事会社として発行業務を主催することにより発行手数料を、発行により引き受けた外貨建てワラントを一般投資家に売却する際に売買益を、ワラント債発行により資金調達した企業の資金運用としての証券投資に際して売買手数料を、それぞれ手にすることができる。

(6) 公正な価格形成が制度的に保障されていない

外貨建てワラント取引は、証券会社との相対取引であって、公正な価格が形成される制度的保障がなく、かえって顧客を犠牲にして証券会社が利益を得るという利益相反の関係にある。

(7) 価格の周知方法が講じられていない

外貨建てワラントの価格情報は、平成元年四月末までは新聞紙上一切公表されておらず、平成二年九月二四日までは、日本経済新聞等に、限定された銘柄の気配値がポイントで表示される程度で、一般投資家の投資判断材料としての価格情報は全く不足していた。

(8) 証券の内容が一般投資者には全く理解不能である

外貨建てワラントは、その原券自体入手困難である上、全文が専門的英語で記載されており、我が国の平均的一般投資家が入手しても、自ら読解することは不可能であった。

(9) 実質的な国内募集・売出しである

本件の外貨建てワラントは、形式的にはヨーロッパ市場で発行されたものであるが、その全部またはほとんどが計画的に直ちに我が国で消化されており、実質的には国内発行と同視できるものであって、大蔵大臣への届出や目論見書の作成等の証券取引法上の規制の潜脱行為である。

(二) このように、証券会社は、外貨建てワラントが欠陥商品と言っても過言ではない証券であるにもかかわらず、その構造的うま味に目を付け、証券取引法を潜脱し、証券会社と一般投資家との証券取引の知識、情報量の圧倒的差異を利用して、一般投資家の利益を顧みずに外貨建てワラントを大量かつ強引に売りさばいたのである。

このような勧誘・販売行為は、社会的に許容された相当性をはるかに逸脱し、公序良俗に反する違法な行為といわざるを得ない。

(被告)

(一) 自己責任の原則

証券取引は、多かれ少なかれ危険を伴うものであり、一般に証券業者が投資家に提供する情報・助言等は、経済的情勢や政治状況等の不確定な要素を含む将来の見通しに依拠せざるを得ず、投資家は、証券業者の勧誘を重要な参考にするとしても、取引を行う以上、投資家自身において当該取引の特質や危険性等を判断し、その適否を最後はあくまでも投資家自身が自己の責任において決すべきものである。

(二) ワラントは、株式の信用取引や商品先物取引に比べて、損失は投資額に限定され、少ない投資で短期間に大きな利益を得ることもできる等のメリットを有しており、会社の資金調達方法と国民の資産運用方法の多様化を図るために昭和五六年の商法改正により導入された有価証券であって、その後も順次流通市場が整備されているのであり、証券会社がワラントを一般投資家に勧誘し取引することは適法な業務活動である。

2  適合性の原則違反について

(原告ら)

(一) 証券会社は、投資家の意向、投資経験及び資力等に最も適合した投資が行われるよう十分配慮すべきである。

ワラント、特に外貨建てワラントについては、自らワラント取引の仕組みとリスク、適正価格等について積極的に研究するだけの能力と意向を有し、ハイリスクに耐え得るだけの資金的余力を有するような投資家、すなわち機関投資家や大手会社の財務部門、特殊な個人投資家等投資のプロのみが取引資格者といえるのであり、原告らのような一般投資家にワラント、特に外貨建てワラントを勧誘することは、適合性の原則に違反する違法な行為である。

(二) 原告X1について

原告X1は、被告との間の株式、転換社債及び投資信託等の証券取引について、株式は一銘柄につき一〇〇〇株から二〇〇〇株に抑え、投資信託は公社債中心の安全なものに限定するという堅実指向の条件を付けた上で、銘柄の選択はCら担当者に言われるがままに委せて投資を行ってきたのであって、原告X1自身が新聞等の資料を見て積極的に取引を行うことは皆無であったのであるから、原告X1が、ワラントのような投機的色彩の強い取引を行う能力も意向もなかったことは明らかである。

(三) 原告X2について

原告X2は、旧制高等女学校を卒業し、亡D(以下「D」という。)と結婚した後は専業主婦であり、仕事に就いた経験はない。

Dが昭和六〇年一〇月に入院した際、今後の生活のために、原告X2の子供名義の瀬戸田造船(内海造船)の株六万株を、当時の被告における原告X2の夫の担当者であったE(以下「E」という。)に依頼したのが、原告X2の証券会社での初めての取引であり、以来原告X2は、E及び後任のFから言われるがままにに投資信託、外国証券の取引及び株式の購入を行ってきたにすぎず、取引内容も投資信託がほとんどであり、原告X2自身が新聞等の資料を見て積極的に取引を行うことは皆無であった。

原告X2は、年金生活を送る老女であり(本件ワラント(X2)取引時七四歳)、被告に預けている金員や有価証券が唯一の資産であって、余剰資金を証券取引に充てるといった余裕のある資力状態とはほど遠い。

以上のとおり、原告X2は、証券取引についての能力・資力・意向のどの面からしても、ワラント取引の不適格者といわざるを得ない。

(被告)

(一) 適合性の原則は公法上の考え方であり、これに違反した行為が直ちに民事法上の不法行為を構成するものではない。

また、前述のとおり、ワラントは少ない投資資金と、信用取引や商品先物取引に比べて少ないリスクでそれと同程度の投資効率を期待できるという利点を有するのであるから、ワラントを一般投資家に対して勧誘すること自体が違法な行為でないことは当然である。

(二) 原告X1について

原告X1は、○○大学を卒業し、内務省等の高級官僚の経歴を持ち、本件ワラント(X1)取引当時a株式会社の大阪支店長として同社の財務を担当し、経済全般に精通する知識、経験を有していた。

同人は、昭和五六年七月一一日に被告西宮支店で原告X1名義及びB名義で証券取引を開始したほか、大阪支店及び西銀座支店でも、原告X1名義及びBを初めとする原告X1の親族名義で相当多数の証券取引を行っており、取引の際には、担当者の買付の提案を、自己の見通しと異なるとして断ることも多く、経済誌の購読等によって独自の相場観を有するなど、豊富な投資知識、経験を有し、投資傾向は、キャピタルゲインねらいの短期売買の傾向が顕著である上、本件ワラント(X1)取引に先立ち、既に被告西銀座支店において、別紙X1ワラント取引別表一記載のワラント取引を開始している。

さらに、同人は、本件訴訟提起後でも一億円以上の預り資産を有し、宝塚市○○という高級住宅地に自宅を所有するなど、相当に潤沢な資産を有していた。

(三) 原告X2について

原告X2は、被告神戸駅前支店において、昭和四九年一一月二八日に取引口座を開設して以来、平成二年明けの株式市場全体の暴落前までは現物株式を中心に相当多数の証券取引を積極的に行い、以降も被告との間で証券取引を継続している。

銘柄の選択については、担当者の勧める銘柄を断ったり自ら注文を出すことも多く、投資傾向は、比較的値動きの軽い現物株式を、短期で売買して利益をねらうもので、ワラント取引は同人の取引意向に合致するものであった。

また、本件ワラント(X2)取引の投資額が約一一五万円であるのに対し、当時の被告における預り資産は約一七〇〇万円ないし一八〇〇万円で、相当の投資資産を積極的に運用していた。

3  説明義務違反等について

(原告ら)

(一)(1) ワラントは、商品構造が複雑で危険性が高く、しかも周知性がない金融商品であるから、証券会社は、顧客にワラント取引を勧誘する際、取引開始時に説明書を交付し、直接口頭でワラントの商品構造、取引形態や危険性等を本人にわかるように説明し、本人がそれを理解してリスク等を納得したことを確認する作業として、確認書を受け取った上、当該ワラントについて具体的に説明する義務がある。

(2) 虚偽表示又は重要な事項につき誤解を生じさせるべき行為の禁止

証券取引法五〇条一項五号(平成四年法律第七三号による改正前のもの。以下同じ)等の法令は、有価証券の売買に関し、重要な事項について虚偽の表示をし又は誤解を生じさせる行為を禁止している。右規制は、説明義務違反のうち特に違法性の高い行為を類型化したものであって、これに違反する行為は直ちに高度の違法性を帯びることになる。

(二) 原告X1について

(1) 原告X1は、平成元年二月初旬、Cが夕刻原告X1宅を訪問した際、同人から「ワラント債」を勧められた。Cは、原告X1に対し、五分間程度、「ワラント債」という言葉を用いて、「転換社債よりはちょっと値動きが激しいが、おもしろいから買って下さい。株が上がるとどんどん上がるし、下がっても大したことはないです。」などと説明し、値動きについてもことさらに転換社債と対比させてこれと類似した証券であるかのように説明し、原告X1が「転換社債のようなものか。」と誤解して質問したのに対し「そのようなものです。」と答えて、ワラントがあたかも元本が保証された債権の一種かのような説明をした。

(2) Cは、ワラントの内容及び危険性についてほとんど説明をせず、「新株引受権」「権利行使期間」「権利行使価格」という言葉すら使っておらず、Cの勧誘は、説明義務に違反する行為であるとともに、原告X1に転換社債のようなものとの誤解を生じさせる、虚偽あるいは重要な事項につき誤解を生じさせるべき表示をする行為であって、証券取引法五〇条一項五号等の法令に違反する悪質な違法行為である。

(三) 原告X2について

(1) 平成二年七月初旬、被告神戸駅前支店営業課長であったG(以下「G」という。)は、原告X2に対し、電話で「ワラントといういいのがありますから、ぜひやらせて下さい。」と勧誘し、原告X2が「わからないものはいやです。」と言ったが、しつこく「いいから任せて下さい。」「あとから説明はいたします。」などといって強引に原告X2を承諾させた。

さらに、ユニーワラントを売却し、多少の利益が出た同月一八日ころ、Gは原告X2に対し、「よかったからというわけでもないのですが、もう一度ワラントをやらせて欲しい。」と電話でしつこく勧誘した。原告X2は「わからないものはいやです。」と何度も断ったにもかかわらず、Gは最後は「そうさせて下さい。」と言い放って一方的に電話を切ってしまい、同月二三日付でニチイワラントを購入し、その旨の報告書を後日送ってきた。

Gは、ワラント取引に際し、原告X2に対して何らワラントについて説明したことはなく、平成四年、新聞でワラントのことが問題になったころに、ワラントについての説明書を突然原告X2のもとに郵送してきただけであった。原告X2は、本件ワラント(X2)取引に際しては、確認書に署名押印しておらず、ただ、何かの機会に、「新株引受権」と書いてあるので新しい株がもらえるのかと思い、被告に要求されるがままに署名押印しただけである。

(2) Gは、ワラントの内容、危険性について何ら説明を行わず、「新株引受権」「権利行使期間」「権利行使価格」といった言葉すら使っておらず、Gの勧誘は、説明義務に違反する行為であるとともに、一方的かつ強引な勧誘で、原告X2の納得をおよそ顧みない社会的相当性を欠いた違法な行為である。

(被告)

(一) 証券取引においては、顧客の自己責任の原則が妥当するのであり、本件のように顧客が豊富な投資経験、知識等を有し、投資する商品がワラントであると知っている以上、ワラントの危険性について原告らが誤信していたことが客観的に明白で、勧誘者もこれを知っていたにもかかわらずあえてその点について注意を喚起しなかったような例外的、詐欺的な場合でなければ、民事上の不法行為に該当するとまではいえない。

(二) 原告X1について

Cは、平成元年二月一〇日、原告X1に対して新日本製鉄ワラント52(以下「新日鉄ワラント」という。)を勧誘した際、ワラントについての説明書を交付し、ワラントとは新株引受権付社債のうちの新株引受権であること、外貨建てであること、ワラントには権利行使期間と権利行使価格があること、権利行使期間を経過した場合はもちろん、株価が権利行使価格を超える見込みがない場合にはワラントは無価値になること、株式に比べて値動きが激しいこと、銘柄が優良であること等の説明を行った。

Cは、以後の取引の都度、ワラント取引の仕組み等について説明し、毎年原告X1の分とBの分ごとに説明書を交付していた。

また、原告X1は、平成元年三月一日付で自己名義で、同年一一月一四日にB名義で、ワラント取引に関する確認書にそれぞれ署名押印し、さらに、平成二年四月に統一書式による確認書が作成された際にも右確認書に原告X1名義とB名義でそれぞれ署名、押印している。

Cは、ワラント取引後もしばしば訪問や電話で、原告X1に対してワラントの状況を報告し、買付後に値下がりしたワラントについては、売却を勧めたが、原告X1は、権利行使期間に間があること、下落した相場もそのうち回復すると判断したことから、売却をせず、保有し続けた。

(三) 原告X2について

原告X2が、平成二年七月一〇日、ユニーワラントの買付をした際、F及びGは、原告X2に対し、電話で、ワラントとは一定の価格で一定の期間内に所定の株数の株式を買い取ることのできる権利であること、一般的に株価が一割上がればワラントは三割位上がる傾向があるが、株価が一割下がればワラントは三割位下がるというハイリスク・ハイリターンの商品であること、権利の売買であり一定の権利行使期間を過ぎると価値がなくなること、そのため長く持つことは考えないほうがよいこと、外貨建て証券であり為替の変動の影響を受けること等ワラント取引一般についての必要な説明をし、ユニーワラントについて権利行使価格や権利行使期間等の説明をした上、ワラント取引にはワラント取引確認書を差し入れる必要があることを告げ、翌日これを差し入れてもらうことを約した。

Fは、翌日原告X2の自宅を訪問し、説明書とともに確認書を交付し、原告X2は、説明書の内容を確認し、確認書に署名押印して被告に差し入れた。

F及びGは、同月二三日にニチイワラントを勧めた際も、同ワラントの権利行使価格、権利行使期間、株価の動向等を説明し、原告X2はこれを理解して自己の意思で右ワラントの買付を行っており、原告の主張する一方的かつ強引な勧誘の事実はない。

ニチイワラント購入後、Fは原告X2に頻繁にその価格を連絡し、右ワラントが値下げ傾向になると、念のため、再度、権利行使期間を過ぎると価値がなくなることを原告X2に説明したが、原告X2は保有を希望した。

また、原告X2には、他の顧客と同様、取引開始後一年ごとにワラント取引に関する説明書を交付するほか、平成三年九月末日以降、半年ごとの基準日における顧客の保有ワラントの評価額や権利行使期間等を記載した「お預り残高明細」を、平成四年二月から三か月ごとに四回にわたり、当該ワラントの具体的な権利行使期限の日等が記載された「権利行使期日のご案内」をそれぞれ送付している。

4  損害について

(原告らの主張)

(一) 原告X1の損害

(1) 原告X1が本件ワラント(X1)取引で購入した各ワラントは、売却する機会のないまま、いずれも権利行使期間の経過により現在その価値はなくなっており、右各ワラントの購入代金に相当する一二八八万九二六二円の損害を被った。

(2) 弁護士費用

原告X1は、本訴訟提起に当たり日本弁護士連合会の報酬基準内の弁護士費用を原告ら代理人に支払うことを約したが、その内一二〇万円については、被告の債務不履行又は不法行為と相当因果関係がある。

(二) 原告X2の損害

(1) 本件ワラント(X2)取引による損害

原告X2は、本件ワラント(X2)取引につき、合計三〇〇万五四一〇円を拠出し、これを一九八万九九三八円で売却しており、差し引き一〇一万五四七二円の損害を被った。

(2) 弁護士費用

原告X2は、本訴訟提起にあたり日本弁護士連合会の報酬基準内の弁護士費用を原告ら代理人に支払うことを約したが、その内一五万円については、被告の債務不履行又は不法行為と相当因果関係がある。

5  過失相殺について

(原告らの主張)

過失相殺の判断は、加害者の立場から見て、被害者にも落ち度があるのだから、一定の損害については被害者自身が負担すべきであるという主張が、公平の見地から是認できるかどうかという判断にほかならない。

本件のような取引型不法行為の場合は、①証券業者は投資家に比して優位な立場にあること、②証券会社の違法な勧誘行為が被害者である投資家の不注意の誘因となっていること、③取引型不法行為の損害賠償訴訟は、被害者の損害回復に加え、取引社会における適正なルールを明らかにし、証券業者の違法行為を抑止する機能を併せ有しているにもかかわらず、安易に過失相殺をすると、かかる違法行為を容認する結果となること、④本件のように、加害行為が、被害者と加害者の信頼関係を利用して行われた場合、被害者の信頼を過失として非難するのはいかにも信義に反することから、安易な過失相殺をすべきでない。

第三争点に対する判断

一  認定事実

1  原告X1と被告の取引の経緯について

前記争いのない事実に証拠(甲B一、二の3ないし5、三の2ないし4、四ないし一一、一三、乙四ないし六、七の1及び2、一〇、乙B一の1ないし6、一〇の1ないし一六の32、一八ないし三二、三八、証人C、原告X1本人)を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 原告X1の取引経験

原告X1は、昭和五一年一〇月ころ、被告大阪支店で証券取引を開始して以来、主に被告西宮支店との間で、自己名義及びB名義で、被告担当者が勧める銘柄で、時価相当額の大きいいわゆる大型株を中心に株式の売買、投資信託、転換社債の取引を行うとともに、a株式会社の大阪支店長として、被告西宮支店で中期国債ファンドの取引を行っていた。

また、原告X1は、被告西銀座支店の担当者Hの勧誘により、昭和六二年一月二七日ころB名義で、同六三年一一月二二日ころ原告X1名義で、別紙X1ワラント取引別表一記載のワラント取引を開始した。

西銀座支店でのワラント取引は、銘柄の選定、購入及び売却について、Hが提案し、これを原告X1が承認するというものであった。

原告X1は、右ワラント取引の際、Hから月に一回程度、取引の収支についての報告を受けていた。

(二) 本件ワラント(X1)取引の勧誘

(1) Cは、平成元年二月初旬の日の夕方ころ、原告X1に対し、同人の自宅において三〇分間程度、新日鉄ワラントの購入を勧誘した。

この際Cは、ワラントについて、価格は基本的に株価に連動するが、値動きの大きいものであること、外貨建て商品なので、為替の変動リスクがあることを説明したうえ、新日鉄ワラントの取引を勧誘した。このとき原告X1は、ワラント取引については特に質問をせず、同日中の即答を避けたが、同月一〇日になって、被告から新日鉄ワラントを購入した。

Cは、同年二月二八日夕方ころ再び原告X1宅を訪問し、「外貨建てワラント その魅力とポイント」と題する書面(以下「説明書」という。)を交付するとともに、同説明書の末尾に添付された「ワラント取引に関する確認書」と題する書面(以下「当初の確認書」という。)に原告X1の署名押印を受けてこれを徴収したが、Cが帰社したとき事務の担当者がいなかったため同日付けの処理ができず、確認書の受入日欄には、翌日に被告側担当者により三月一日と記載された。

(2) 原告X1は、その後Cから、本件ワラント(X1)を含む別紙X1ワラント取引別表二記載のワラント取引の勧誘を受け、各ワラント取引を行った。Cは、勧誘の度に外国証券取引報告書を送付し、預り証を交付した。

原告X1は、平成元年一一月一四日夕方には、B名義でのワラント取引についての確認書に署名押印し、このときの確認書の受入日付欄には、被告側担当者により一一月一四日と記載された。

また、原告X1は、平成二年四月に統一書式による「国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書」と題する書面(以下「確認書」という。)が作成された際にも右確認書に原告X1名義とB名義でそれぞれ署名押印し、その際、表紙に「新株引受権証券(外貨建ワラント)取引説明書」及び「国内新株引受権証券(国内ワラント)取引説明書」と題する二つの書面が一冊の形となった書面(以下、先に原告X1に交付された説明書と同様「説明書」という。)の交付を受け、平成三年以降毎年、原告X1名義の分につき二月に、B名義の分につき一一月に、それぞれ年一回説明書の送付を受けた。

(三) Cは、平成二年一月ころから株式相場全体が下落し、本件ワラント(X1)の価格も下落したため、訪問や電話で、原告X1にワラントの状況を報告し、本件ワラント(X1)の売却を勧めた。これに対し原告X1は、下落した相場もそのうち回復すると判断したことから本件ワラント(X1)の保有を続けたが、結局その価格は回復しないまま、権利行使期間が経過した。

2  当事者の供述等について

(一) 原告X1の供述等

(1) 右認定に対し、原告X1は、本人尋問ないし陳述書(甲B一)において、Cによるワラントについての説明内容について、同人は「ワラント債」という言葉を用い、転換社債のようなものであるが、値動きは少し大きいものであること、価格は株価に連動すること、外貨建て証券で為替リスクがあることのほかに説明をしていないことを供述し、また、説明書及び当初の確認書は平成元年二月二八日には交付されておらず、確認書に署名押印したのは、Cが、同日以外の何かの機会に、総務が言うからとにかく押してくれと言ったので内容を読まずに押したこと、ワラントについての説明書は、平成三年一一月五日付け「外貨建てワラントの説明書送付のご案内」が送付されたとき初めて受領したことを供述している。

(2) Cの説明内容について

原告X1は、被告西銀座支店でのワラント取引の際にHから取引経過について報告を受けていたうえに、平成元年二月二二日には新日鉄ワラント売却で利益を得ていることから(別紙X1ワラント取引別表二参照)、被告西宮支店でのワラント取引を開始した直後から、ワラントの値動きの大きさについては認識していたと認められ(原告X1は、Hからは、電話で損が出たとか利益が出たと抽象的に言われただけで、損益の数字を教えられたり書類で送ってきたことはなかった旨供述するが、直ちに採用できない)、にもかかわらず、原告X1はCに対して何ら問い合わせをしていないことからすると、証人Cが証言するとおり、Cは、この点については説明していたものと認めるのが相当である。

また、原告X1は、Cが、ワラントをことさらに転換社債と誤信せしめるような説明をした旨主張するが、Cは、償還期限に償還されるなどの転換社債と類似するような具体的な説明はしていないこと(原告X1本人)、陳述書(甲B一)にはCが「ワラント債」という言葉を用いた旨記載しているが、原告X1本人尋問の主尋問の際は、Cがワラントと言ったかワラント債と言ったかははっきりしない旨供述していることから、原告X1の右主張は採用できない。

もっとも、原告X1は、本件ワラント(X1)取引以前に多数の株式及び新株引受権付社債の取引をしてきたこと、Cは、ワラントが転換社債と全く異なる商品であることを明示的に指摘したとは認められないこと(証人C)から、原告X1がワラントを転換社債に類似したものであると誤解をしていた可能性は否定できない。

(二) 証人Cの供述について

証人Cは、原告X1に対して、前記認定の説明内容の他に、権利行使期間等についても説明した旨供述する。

しかし、原告X1は、被告西銀座支店及び西宮支店における、本件ワラント(X1)以外のワラントの、売却に伴う差損については請求の対象としていないこと、平成二年一月以降、株式相場の下落とともにワラントの価格が下落した際、Cの勧めにもかかわらず、そのうち値段が回復すると考えて本件ワラント(X1)を売却していないこと、他方、平成元年一二月一二日付けで三六一万二五〇〇円で購入した三菱商事ワラント24を、平成四年五月七日に四二万二一四〇円で売却していること(別紙X1ワラント取引別表二参照)、右売却の理由として、平成三年暮れか平成四年初めころにCの後任であるIから初めて権利行使期間についての説明を受け、三菱商事ワラント24については、同人が価格のついているうちに売却するよう勧めたので売却した旨の原告X1の供述から、原告X1が、本件ワラント(X1)を買付けたころワラントが権利行使期間経過後に無価値になることを理解していたとは認められず、他にCの右供述を裏付ける証拠もないことから、右の事実を認めることはできない。

(三) 当初の確認書の署名押印の時期及び説明書の交付について

原告X1名義の署名押印のある確認書(乙B三)は、署名押印欄上部の日付欄が空白である一方で、受入日欄には三月一日と記載されているところ、元帳(乙B一の106)には、二月二八日の取引内容について、平成元年三月一日を記帳日として記載されていること、この点について、証人Cの、同年二月二八日に原告X1から署名押印した当初の確認書を受領したが、夕方であったため当日付けの処理ができず、日付けが三月一日と記載された旨の供述は、具体的かつ自然であること、原告X1の、同年二月二八日以外の機会に内容をよく読まずに署名押印した旨の供述は、その根拠が明らかでないうえ、署名押印する際、被告西銀座支店におけるHとのワラント取引ではこのような書面に署名押印したことはないのでおかしいと思った旨の供述と整合しないことから、原告X1は、平成元年二月二八日に当初の確認書に署名押印したと認めるのが相当である。

なお、B名義の確認書(乙B六)の受入日欄には、一一月一四日と記載されており、Cは、同日の夕方に原告X1からB名義の署名押印を得たと供述するが、このこと自体も不自然ではなく、既に原告X1名義の当初の確認書を徴収していると認められることを合わせ考えれば、両者の受入日欄記載の取扱いがたまたま異なるからといって、被告がB名義の当初の確認書の受入日欄の記載を後日恣意的に作出したと直ちに推認することはできない。

そして、当初の確認書の表面には「私は、貴社から受領したワラント取引に関する説明書の内容を確認し、私の判断と責任において下記の取引を行います。」と一見して明確に記載されているのであるから(乙四)、国家公務員の経験があり、当時も会社経営に携わっていた原告X1が、かかる明確な記載も読まずに当初の確認書に署名押印したとは考え難いこと、二月二八日に確認書を徴収した際、説明書も交付した旨の証人Cの証言から、同日、Cは原告X1に対して説明書を交付したと認めるのが相当である。

(四) ワラント取引後の説明書の送付について

被告において、ワラント取引後一年ごとの説明書の送付は平成三年以降は定期的に行われているものであり、特段の事情のない限り原告X1にも送付されていたと推認すべきところ、被告から送付された書類について、いらないものは破って捨てており、平成三年一一月五日付けの説明書が送付された際も、平成三年暮れか平成四年初めころ、Iから説明を受けて初めて説明書を読んだ旨の原告X1本人の供述からすると、原告X1は、被告から説明書を送付されたにもかかわらずこれを読んでいない可能性が高い。

3  原告X2と被告の取引の経緯について

前記争いのない事実及び証拠(甲C一、二の1、三の1、四ないし一一、乙七の1及び2、一〇、乙C一の1ないし一二、一四、一五の1及び2、一六、一八、一九、証人G、同F、同E、原告X2本人)によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告X2の取引経験

原告X2は、遅くとも昭和六〇年一一月ころから被告との間で、相当数の株式や投資信託の証券取引を行い、本件ワラント(X2)取引当時、被告に対して約一七〇〇万円ないし一八〇〇万円を預託していた。

また、原告X2は、被告神戸駅前支店で開催される証券取引についての講演会にたびたび出席していた。

(二) ユニーワラント取引の勧誘

(1) G及びFは、平成二年五月ころ、被告神戸駅前支店に転勤し、その直後、前任者であるJ課長及びEとともに原告X2方を訪問した。この際原告X2は、株式の取引で損失を受けている旨Gらに苦情を述べた。

(2) 原告X2は、同年五月二九日、Fが原告X2宅を訪問した際にも、以前購入した商品の評価損について苦情を述べ、その後、Fの勧めにより購入したダイダン及び新明和電気の株式並びにトヨタの転換社債の価格が上昇しないことについても不満を述べたため、Fは、ダイダン及び新明和電気の株式の売却とサンケン電気の株式の購入を勧め、原告X2はこれを了解した。

(3) Fは、原告X2が証券取引の損失について不満を述べたことから、同人にワラント取引を勧誘することを上司であるGに相談し、同人の決裁を得たので、平成二年七月九日夕方ころ、原告X2方に電話し、約一五分ないし二〇分程度、ユニーワラントを購入するよう勧誘した。

しかし、原告X2がFの勧誘のみでは納得せず、Fの上司であるGの説明を求めたため、GはFと電話を代わり、ユニーの株価が現在底値であって今後上昇の期待が高いことから、ユニーワラントも有望であること等を説明して同ワラントの購入を勧めた。原告X2は、Gの説明によりユニーワラントを購入することを了解したが、この際、価格上昇の見通しについての質問はしたものの、ワラントの内容や危険性についての質問はしていない。

Gはこのとき、ワラント取引を行うには確認書が必要であるから、Fに取りに行かせる旨を伝えてFに電話を代わり、Fは、原告X2に対し、確認書は、同月一一日に右(2)のダイダン及び新明和電気の株式の本券をもらいに原告X2宅を訪問する際に徴収することを伝え、ユニーワラントの購入代金一八〇万円については、右(2)の取引の余剰金を充当し、不足分については後日現金振込により入金することで原告X2の了解を得た。

(4) Fは、同月一一日、原告X2宅を訪問し、原告X2が、ユニーワラントの価格の見通しを聞いたので、同ワラントの価格の上昇に期待が持てる旨を説明した上で、説明書とともに当初の確認書を渡し、原告X2は当初の確認書に自ら署名押印してFに交付した。

(三) ニチイワラント取引の勧誘

(1) 原告X2は、Fの勧めにより、平成二年七月一六日にユニーワラントを売却してボーイングカンパニーの株式を購入し、右取引の結果、一四万七四九五円の余剰金が生じた。

同日原告X2は、被告神戸駅前支店を訪れ、四八万九二五〇円の現金を出金している。

(2) 右取引の後、ボーイングカンパニーの株式が値上がりしないことについて原告X2が不満を述べたため、Fは、再度ワラント取引を勧誘することを考え、平成二年七月二三日、電話で二〇分程度、ニチイワラントの購入を提案した。

この際Fは、ニチイの業績、株価の推移等を説明して同ワラントの購入を原告X2に勧誘したが、当時、同ワラントの権利行使価格が二六五五・五円であったのに対し、株価は二二六〇円程度で、権利行使価格が株価を上回るマイナスパリティの状況にあったが、この点を指摘した説明はしていない。

このときも、原告X2がGの話を聞きたいと言ったので、GはFと電話を代わり、ニチイが会社として利益が出ていること、株価が上昇傾向にあることを説明して、ニチイワラントの勧誘をした。原告X2は、Gの説明により、ニチイワラントの購入を了解し、同時にボーイングカンパニーの株式を売却することも了解した。

F、Gのいずれも、このときはワラント取引一般についての説明は特にしていない。

(3) 原告X2は、翌七月二四日、ユニーワラント売却及びボーイングカンパニー株購入後の余剰金と、同月一九日に解約した投資信託のニュータイミングシステムの解約代金との合計八九万一四五八円を、被告神戸駅前支店において現金出金している。

(四) その後の経過

平成二年八月のイラクのクウェート侵攻をきっかけに、株式市場は全体的に大きく下落し、ニチイワラントの価格も下落を続けた。

同ワラントの価格が原告X2の購入時の半分程度になった平成二年暮れころ、原告X2は、被告神戸駅前支店を訪れ、GとFに対して苦情を述べ、これに対しGは、当時株式市況の見通しがあまりきかない状況であるとして、同ワラントの売却を勧めたが、原告X2は様子を見るとして売却を見送った。

その後さらにニチイワラントの価格は下落し、原告X2は、一ポイントを切った平成三年夏ころにも売却をしなかったものの、結局権利行使期限の一か月ほど前、Fの勧めに応じて同ワラントを売却した。

なお、被告は、原告X2に対し、同四年三月、同年九月の各末日ころ、ワラントの基準日における評価額や権利行使期間等を記載した「お預かり残高明細書」と題する書面を送付し、平成四年八月及び同年一一月には、権利行使期間と権利消滅について記載した「ワラントの権利行使期日のご案内」と題する書面を送付している。

また、本件ワラント(X2)取引後、被告神戸駅前支店から、平成三年及び同四年に説明書を送付している。

4  当事者の供述等

(一) 原告X2の供述

(1) 右認定に対して、原告X2は、本人尋問ないし陳述書(甲C四)において、証券取引はすべて担当者に言われるがままに行ってきたこと、ワラント取引の勧誘はGからであり、Fではないこと、Gは、ワラントの内容及び危険性について何ら説明をせず、ワラントの銘柄すら知らせず、ニチイワラント取引の際は、原告X2がわからないものはいやだと断ったにもかかわらず、いいから任せて下さいと述べて、具体的な説明を行わず一方的に電話を切ったこと、ワラント取引後、被告神戸駅前支店を訪問したことはなく、ワラントの価格についてFやGに対して苦情を述べたこともないこと、当初の確認書(乙C三)は、どういう機会に書いたものかはっきりしないこと、ユニーワラント取引の際に説明書の交付は受けておらず、平成四年より前に説明書が送付されたことはないことを供述している。

(2) 原告X2の証券取引経験について

原告X2は、Eが担当者であったころから被告神戸駅前支店で行われる証券取引の講演会に出席していたこと(E、原告X2本人)、原告が署名押印した書類を、Dの存命中、被告に提出していること(乙C八ないし一〇、原告X2本人)、被告との取引に使用した印章を、Dの存命中から原告X2が保管していたこと(原告X2本人)から、原告X2は、本件ワラント(X2)取引以前に、株式等の取引についてある程度の知識を有し、自らの判断で証券取引を行っていたものと推認できる。

(3) Fの勧誘について

本件ワラント(X2)以外の証券取引についてはFが原告X2の担当者として取引を行っていること、ユニーワラントの購入資金は、ダイダン及び新明和電気の株式の売却代金と現金振込により支払われていることから、ユニーワラントの購入は、他の株式取引と連動して行われていると推認できること及びFは昭和六二年ないし六三年ころからワラント取引の経験があることに照らすと、本件ワラント(X2)取引についてのみ、上司であるGが単独で勧誘を行い、Fが何ら勧誘をしていないとは考えがたい。

(4) Gの勧誘について

Gが原告X2に対してニチイワラント取引を勧誘したこと自体については当事者間に争いがなく、右(3)と合わせ、G及びFの両名が勧誘行為をした事実が認められるところ、担当者であるF以外にGが勧誘を行った理由としては、原告X2がFの勧誘だけでは納得せず、上司であるGの説明を求めた旨の証人F及び同Gの供述は自然であり、特にこれを否定する証拠はない。

そうであれば、Gは、原告X2が説明を求めたにもかかわらず何ら説明をせずに、「後で説明しますから。」と言って一方的に電話を切った旨の原告X2の供述は、右の状況に照らして不自然であり、右供述を裏付ける証拠もないこと、これに反する証人Gの供述に照らし、にわかには採用しがたい。

(5) 本件ワラント(X2)取引後の原告X2の神戸駅前支店訪問について

証拠(乙C一五の1ないし5、証人G及び同F)によれば、原告X2が、七月一六日以降数回に渡り、現金出金のために同店を訪問していることが認められる。

(二) G及びFの供述

(1) 証人G及び同Fは、ユニーワラント勧誘の際、ワラント取引の内容及び危険性について原告X2に対し説明した旨供述する。

前記認定のとおり、原告X2に対するユニーワラント勧誘の際、原告X2は、Fの説明では同ワラントの購入を承諾せず、Gの説明を求めていること、原告X2本人尋問において、株式は値段が新聞に出るので怖いものとは思わなかったとの、FないしGがワラントの価格が新聞等に掲載されていないことについての説明したことを前提とする供述をしていることから、原告X2に対して、ワラントについて何らかの説明があったことが窺える。

(2) 原告X2の質問について

証人G及び同Fは、原告X2からワラントの内容について質問があり、これに回答した旨供述するが、ワラントの価格上昇の見込み以外の具体的な質問内容については、よく覚えていないと供述するのみであることに照らし、直ちには採用できない。

(3) ニチイワラントの説明について

証人Fは、ニチイワラントについて、マイナスパリティであるが、ワラントが投資効率の良さで人気のある商品で、プレミアムが高いことから価格が付いている旨を説明したと供述するが、陳述書(乙C一八)及び主尋問では右の説明についての供述はない上、反対尋問の際にはマイナスパリティであるにも関わらずポイントがついている理由については説明していない旨供述しており、採用できない。

(三) 確認書及び説明書について

確認書(乙C三)の日付欄には七月一一日と記載されている。

右確認書には、原告X2自身による署名押印がなされており、同確認書には、「私は貴社から受領した「国内新株引受権証券取引説明書」及び「外国新株引受権証券取引説明書」の内容を確認し、私の判断と責任において下記の取引を行います。」と一見して明確に記載されていること、確認書は、説明書の末尾に添付されているものであることから、確認書を徴収した際に、説明書も交付した旨のFの供述は信用できる。

また、説明書は、取引開始後一年ごとに被告神戸駅前支店から機械的に送付されており、特段の事情のない限り原告X2にだけ送付していないとは考え難い。

(四) ワラントについての原告X2の理解

G及びFは、ワラント取引一般についての説明を、電話でのユニーワラントの勧誘の際以外にはほとんど行っていないこと、原告X2は、右勧誘の際、ユニーワラントの価格上昇の見込みについてのみ質問していたこと、ニチイワラントの価格が著しく下落し、Fが売却を勧めたにも関わらずニチイワラントの保有を続けていたことから、G及びFが、ユニーワラント勧誘の際、ワラントについて何らかの説明をしていたとしても、原告X2がワラントの内容及び危険性についての理解していない可能性が高い。

なお、原告X2は、説明書及び取引明細書の交付を受けているが、右事実をもって直ちに、同人がワラントの内容について理解したと推認することはできない。

二  ワラント取引の違法性について

ワラントは、前記第二の一の2、3記載の特徴を有し、大きな危険を伴うものではあるが、商法が分離型新株引受権付社債の発行を認め、証券取引法上もワラントの取引が予定されていること、少ない投資額で大きな利益を得る可能性があり、生じ得る損失も最大限で投資額に止まるという点で金融商品としての合理性を有すること、ワラントの特徴や価格情報の入手方法について十分な説明を尽くせば一般投資家にとって理解可能であることからすると、一般的に、証券会社が一般投資家を対象として行うワラント取引それ自体が公序良俗に反するものとは認められない。

そして、本件全証拠によっても、被告のワラント取引それ自体について、これを公序良俗に反する違法な行為と認めることはできない。

三  本件における具体的勧誘行為の違法性について

1  自己責任原則と証券会社の義務

(一) 証券取引は、本来危険を伴うものであって、証券会社が投資者に提供する情報も将来の経済情勢や政治状況等の不確定な要素を含み、予測や見通しの域を出ないのが実情であるから、投資者は、右のような情報を参考にしつつも自ら投資判断に必要な情報を収集し、自らの判断と責任において証券取引を行うのが原則であり、このことはワラント取引においても妥当する。

(二) しかしながら、証券会社は、公的な免許を受けて証券業を営む者であって、証券取引及び当該商品に関する高度の専門的知識、豊富な経験、証券発行会社の業績や財務状況等の情報、それらに基づく優れた分析・判断力を有するのみならず、政治・経済情勢等、あらゆる面において情報的優位にあり、それ故に多数の一般投資家は、証券会社の推奨・助言等にはそれなりの合理性があるものと信頼して証券市場に参加し、その信頼を保護することにより市場秩序が維持されているという現在の状況下では、前記第二の一の2、3のとおりのワラントの特質に鑑み、証券会社は、具体的にワラント取引を勧誘するに際して、信義則上、顧客がその危険性について的確な認識形成を行い自己の判断と責任で取引し得る状態を確保するための配慮義務を負うことがあり、これに反した勧誘行為は私法上違法と評価されることがあるというべきである。

2  適合性原則違反について

(一) 証券会社の情報的優位の状況における顧客の証券会社に対する信頼保護の要請のもと、証券取引法や公正慣習規則等が、証券会社に対し、顧客に対する投資勧誘に際しては、顧客の投資経験、意向及び資力等に最も適合した取引がされるよう配慮することを要請していることからすると、証券会社又はその従業員が行った顧客への投資勧誘が、当該投資者の投資意向ないし目的に明らかに反し、投資経験・資産等に照らし明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘したものである場合には、当該勧誘行為は私法上違法なものというべきである。

3  説明義務について

(一) 前記のとおり、ワラントは、比較的新しい金融商品で、その仕組みも複雑である上、ハイリスク・ハイリターンであること、証券会社の情報的優位の状況における顧客の証券会社に対する信頼保護の要請のもと、公正慣習規則等の日本証券業協会の自主規制においても、証券会社がワラント取引をする際には、顧客に対して予め説明書を交付し、取引内容や危険性について十分説明し、自己の判断と責任において当該取引を行う旨の確認を得るために確認書を徴求するように要請されていることからすると、顧客が的確な認識形成をした上で投資決定するための前提として、証券会社あるいはその従業員は、ワラント取引に際しては、顧客の年齢、職業、投資経験、能力、資産状況等に応じて、ワラントの特徴、仕組み及び危険性についての説明をする義務の生ずる場合があって、これに違反する勧誘行為は私法上違法なものというべきである。

四  そこで、前記一で認定した事実に基づき、原告らと被告の間の各取引における違法性の有無について判断する。

1  原告X1の取引について

(一) 適合性原則について

原告X1は、a株式会社の大阪支店長として同支店の経営全体を管理する上で、株式についても学習し、自己名義のほか、B名義及び同支店名義で、被告西銀座支店でのワラント取引を含む多くの証券取引を行っていること、一件につき一〇〇〇万円以上の資金を投じた取引が数多くあること、兵庫県宝塚市○○の自宅等の資産を有していることからして、Cの本件勧誘行為を、投資意向ないし目的に反した、投資経験・資産に照らして過大な危険を伴う取引への積極勧誘と評価することはできず、適合性原則に反し違法であるということはできない。

(二) 説明義務違反について

(1) 原告X1は、本件ワラント(X1)取引当時六九歳と高齢であること、それまで信用取引等投機性の強い取引の経験はほとんどなかったこと、自ら主体的にワラント取引を望んだわけではないこと、これまでに株式や転換社債の取引を行ってきたことから、ワラントについて、転換社債と誤信する可能性が高く、同人に対してワラント取引を勧誘するには十分な説明が必要であり、他方Cは、原告X1の被告西銀座支店でのワラント取引の経験を知らなかったというのであるから、ワラントについて十分説明することを期待できる状況にあったといえる。

したがって、Cとしては、ワラント取引は債券ではなく権利の売買で、転換社債とは異なること、ワラントの価格は基本的に株価と連動し、株価の数倍の値動きをするものの、必ずしも株価と連動するとは限らず、価格の予測が非常に困難であること、権利行使期間を過ぎると無価値になる上に、権利行使期間前でも権利行使価格を株価が上回る見込みが薄い場合、権利行使期限が近づくにつれて売却が困難になる可能性が高くなることを中心に、ワラントの仕組み、特徴、危険性等を原告X1が理解できるように説明書を提示しながら具体的に説明する必要があったというべきである。

(2) そうであるところ、前記認定のとおり、Cは、本件ワラント(X1)取引に際し、ワラントの価格が基本的に株価と連動すること等は説明したものの、権利行使期間後は無価値になること、権利行使期間前でも権利行使価格を株価が上回る見込みが薄い場合、権利行使期限が近づくにつれて売却が困難になる可能性が高くなること、転換社債とは異なることについての十分な説明はしておらず、また、ワラントについて説明をした後、原告X1が、特に質問をせず、ワラントの危険性を説明しても特に関心を示さないのであるから、同人の理解に疑問を抱き、さらにわかりやすく説明すべきであったのに、特に質問をしないことをもって、ワラントについての理解が得られたものと軽信してそれ以上の説明を行わず、この説明不足のために原告X1は、ワラントについての危険性を十分理解できないままに本件ワラント(X1)取引を行ったのであるから、Cの本件勧誘行為は、証券取引にあたっての説明義務に違反した違法なものであって、被告は、右違法な勧誘行為により本件ワラント取引(X1)をおこない、その結果損害を被った原告X1に対して、民法七一五条によりその損害を賠償する責任を負うものというべきである。

(三) 虚偽又は誤解を生じさせる行為について

前記認定のとおり、Cが、ことさらにワラントを転換社債と誤信せしめるような言動をし、あるいは原告X1の誤解に乗じたとまでは認められず、本件ワラント(X1)取引に際し、虚偽又は誤解を生じさせる違法な行為を行ったとは認められない。

(四) 原告X1の損害額について

説明義務に反した違法な勧誘により顧客が証券を購入した場合、当該顧客は、自己の行う取引の内容及びその危険性を正しく理解し、主体的な判断により当該投資をするか否かを決定することができない状態で出捐に至らされたものと認められるから、基本的には、購入のために支出した費用それ自体が損害と言うべきである。

本件において、原告X1は、信用取引等の投機性の高い投資経験はほとんどないことから、ワラントの危険性を理解してもなおワラント取引をしたと認めうる特段の事情はなく、本件ワラント(X1)取引における各ワラントの購入代金相当額である一二八八万九二六二円が損害の基礎となる額である。

(五) 過失相殺について

前述のとおり、Cの勧誘行為は違法なものではあるが、ワラントの値動きの大きさや、外貨建てワラントの場合、外国証券で為替の影響があることについては説明をしていること、勧誘後、説明書を交付して原告X1が自らワラント取引について検討する機会を与えていること、欺罔的手法を提供して勧誘したものとは認められないことを考慮すると、その過失ないし違法性の程度は重大とはいえない。

これに対し、原告X1は、Cからワラントの値動きが株価より大きいこと等を説明されていた上、株式取引等について相当の経験、知識、能力を有すること、被告西銀座支店でのワラント取引や新日鉄ワラント売却により、ワラントの値動きの大きさを、自らの体験に基づき十分認識していたはずであることから、Cに対してワラントについて納得のいくまで説明を求めることは容易であったはずであること、新日鉄ワラント購入後に、ワラントの性質についてわかりやすく記載してある説明書を交付されたほか、平成三年から再度説明書を受け取ったのに、その内容を検討することなく放置したことを勘案すると、原告X1がワラント購入に伴うリスクの内容及び程度をより慎重に検討しようという姿勢を有していたならば、本件損害の発生及び拡大を防止し得たと認められるから、原告X1の過失は大きいものというべきである。

そこで、前記認定の事実のほかに、右の諸事情を考慮すると、過失相殺として、原告X1の損害のうち七割程度を減じ、三八七万円を損害額と認めるのが相当である。

(六) 弁護士費用について

原告X1が本訴提起をその訴訟代理人である弁護士に委任したことは、当裁判所に記録上明らかであり、その費用のうち四〇万円が、被告の不法行為と相当因果関係にある損害と認められる。

2  原告X2の請求について

(一) 適合性原則

原告X2は、本件ワラント(X2)取引以前に相当多数回の証券取引を行い、証券会社の開催する説明会等にも出席していることから、株式取引については十分な経験及び知識を有していたと推認できること、被告の預り金が約一七〇〇万円ないし一八〇〇万円であるのに対し、本件ワラント(X2)取引に同一時期に投資した金額は、最大でもユニーワラント購入価格である一八五万二二〇〇円にとどまっていることからすると、原告X2が本件ワラント(X2)取引当時七四歳の高齢で、職歴もないことを考慮してもなお、原告X2に対してワラント取引を勧誘する行為自体が、投資意向ないし目的に明らかに反した、過大な危険を伴う取引への積極勧誘とまでは評価することができず、適合性原則に反し違法であるということはできない。

(二) 説明義務違反

(1) 株式等の取引について相当の知識、経験を有しているとはいえ、ワラントという、従来の株式や社債とは異なる新規の商品を七四歳の高齢者で職歴もない原告X2に勧誘するうえ、ニチイワラントについては、同ワラント勧誘当時マイナスパリティの状況にあったのであり、損失を受ける可能性が高いのであるから、ワラント取引の内容、ワラントの価格は基本的に株価と連動し、株価の数倍の値動きをするものの、価格の予測が非常に困難であること、権利行使期間を過ぎると無価値になる上に、権利行使期間前でも権利行使価格を株価が上回る見込みが薄い場合、売却が困難になる可能性が高くなること等を、原告X2が理解できるように説明書を提示しながら同人が理解できるよう具体的に説明し、当該ワラントがマイナスパリティであって、ほぼプレミアムのみで価格が形成されており、その後の株価の価格上昇の見込みが相当高くない限り、売却の機会のないまま無価値になる危険性が高いことについて、特に丁寧に説明すべきであった。

(2) そうであるところ、F及びGは、ワラント取引の説明について、電話で会話したのみで、後日Fが原告X2宅を訪問した際は、一般的なワラント取引の説明すらしていない。

また、ニチイワラントの勧誘に際しては、同ワラントがマイナスパリティの状況にあることの危険性について説明していない。

以上によれば、G及びFの本件ワラント(X2)勧誘行為は、証券取引にあたっての説明義務に違反した違法なものであるから、被告は、右違法な勧誘行為により本件ワラント取引(X2)をおこない、その結果損害を被った原告X2に対して、民法七一五条によりその損害を賠償する責任を負うものというべきである。

(三) 原告X2の損害額について

前記1、(四)同様、基本的には、ユニー及びニチイの各ワラントの購入のために支出した費用それ自体が損害となり、ワラントの購入価格からワラント取引により受けた利益を損益相殺した一〇一万五四六二円が損害の基礎となる額である。

(四) 過失相殺について

G及びFの勧誘行為は違法なものではあるが、勧誘の後とはいえ、説明書を交付して原告X2が自らワラント取引について検討する機会を与えていること、ワラントについて何らかの説明をしたことが窺えること、ことさらに欺罔的手法あるいは断定的判断を提供して勧誘したものとは認められないことを考慮すると、その違法の程度は重大なものとはいえない。

他方、原告X2は、株式取引等について相当の経験、知識を有することから、Fに対して、電話での勧誘時、あるいは原告X2宅での勧誘時に、納得のいくまで説明を求めることができたはずであること、ユニーワラント勧誘時に、ワラントの危険性についてわかりやすく記載してある説明書を交付され、ワラント購入後、権利行使期間等を記載した受渡計算書及び残高明細書を受けとり、また平成三年から再度説明書を受けとっていることから、これらを検討してワラントについてFに対して説明を求めることができたはずであることを勘案すると、原告X2の過失は小さくはない。

そこで、前記認定の事実のほかに、右の諸事情を考慮すると、過失相殺として、原告X2の損害のうち五割程度を減じ、五一万円を損害額と認めるのが相当である。

(五) 弁護士費用について

原告X2が、本訴提起をその訴訟代理人である弁護士に委任したことは、当裁判所に記録上明らかであり、その費用のうち八万円が、被告の不法行為と相当因果関係にある損害と認められる。

3  結論

以上により、原告らの請求は、原告X1について四二八万円、原告X2について五九万円及び原告X1につき内金三八七万円、原告X2につき内金五一万円に対する本件訴状送達の日の翌日である平成五年三月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める範囲において理由があるので、右の範囲でこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないので棄却する。

(裁判長裁判官 森本翅充 裁判官 徳田園恵 裁判官 坂本好司)

〈以下省略〉

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